校長通信「響きあう学校」

校長通信 響き合う学校 2015年5月号

H27年5月号

響きあう学校      安城学園高等学校だより 2015.5.18(月)第145号

安城学園高等学校長 坂田 成夫

   「世界はうつくしいと」 長田 弘(おさだ ひろし)


うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。
ふと気がつくと、
うつくしいということばを、
ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。

そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

きらめく川辺の光りはうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

太い枝を空いっぱいにひろげる
晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

冬がくるまえの、曇り日の、
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。

コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。

過ぎてゆく季節はうつくしいと。
きれいに老いてゆく人の姿はうつくしいと。


一体、ニュースとよばれる日々の破片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

うつくしいものをうつくしいと言おう。
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。

       

【今月の詩人と詩 長田 弘】 
福島市出身。早大在学中から同人誌に参加し、1965年「われら新鮮な旅人」でデビュー。平易な言葉で語り掛けた散文詩集「深呼吸の必要」(84年)はロングセラーになりました。2010年、「世界はうつくしいと」で三好達治賞を受賞。評論や翻訳、児童文学の分野でも活躍。「本の話から始まる」「人生の特別な一瞬」「最初の質問」「詩2つ」「なつかしい時間」「詩の樹の下で」「問う力」などたくさんの著作があります。平成27年4月に「長田弘全詩集」を刊行しましたがその1ヶ月後の5月3日に胆管がんのため東京都杉並区の自宅で逝去されました。75歳。長田さんは詩の中で、「うつくしいものをうつくしいと言おう」と書いています。それは呼びかけであり、自分自身に対する決意でもあります。美しい詩だとつくづく思います。長田さんは谷川俊太郎さんと並んで日本を代表する詩人の一人でした。惜しい人を亡くしました。

【美しいものには美しいと感じる心を失わないようにしたい】
 先週の12日、台風が通過した翌日の空は美しい青空が広がっていました。「なんて美しいだろう」と心から思えるような青空でした。「綺麗」ではなく「美しい」です。身の回りにも美しいと思えるものはたくさんあります。長田さんがあげているように遠くの山並み、草に落ちている雲の影、きらめく川辺の光、大きな樹のある街の通り、行きかう人たちのなにげない挨拶。路地や屋根の風景。すべて身の周りにあるものです。美しいものは心を美しくすると思います。忙しさの中で埋没しないように、忙しさの中で人を傷つけないように、忙しさの中で大切なものを見失うようにしたいものです。そのためには余裕をつくることが重要です。私の余裕の作り方の一つは深呼吸です.深呼吸をすることによって美しいものを美しいと感じる心が復活してくるように思います。長田弘さんの本にも「深呼吸の必要を」という本があります。美しいものを美しいと言い合える関係を広げて行きたいとも思います。

【ある高校生の就職〜PTA総会で紹介した話】
 昨年1年間の新聞記事の中から日本新聞協会が選んだHAPPY NEWS大賞です。鹿児島にある南日本新聞の記事です。
 『ある高校生がガソリンスタンドでアルバイトをしている所へある会社の車が給油にきた。彼は運転している社員の人に聞いた。「おたくの会社で高卒の採用はないのですか。」後日、会社の別な社員にも同じことを聞いたという。その話を聞いたその会社の社長が、ほかの社員に頼み、どういうことなのかガソリンスタンドの高校生に聞いてもらった。
 高校生は、「どの社員の作業車も、道具類がいつも整頓されている。こんな先輩たちのいる会社で頑張りたい」と答えたという。
 社長は心を動かされる。「高校生が車内の整理状況を見て、一生の仕事にわが社を選ぶなんて。」「将来、会社を支える人材に育つのでは。」
 当初、高卒者の採用予定はなかったが急遽採用試験を実施した。すると、彼は成績優秀で、親思いの優しい青年だったので、即座に採用を内定したという。社長は社員に語る。「誰がどこを見て評価するか分からない。みんなが車内を整頓しているから、高校生に信頼された。仕事の中身も同じ。」
いつもそんな思い出仕事をしているだろうか。会社の質と信頼度は、こんな所にあらわれるかもしれない。どんなに立派なことを言っていても、普段の行動を他の人が見たときに、どう思われるかだなと改めて思いました。何気ない高校生の言葉を、社長に伝えた社員、そして、どういうことなのか高校生に聞きにいかせた社長。「整頓されている」会社の姿が目に見えるようだ。
 記事はここまでですが、会社を大きく変えた理由。それが挨拶です。
この会社では十数年前に業績が低迷し、社員も挨拶を交わさないなど職場の雰囲気は乱れていたそうです。
そんな時に社長は自ら社員に元気に挨拶をし、かつハイタッチをすることを励行したそうです。すると、次第に会社の雰囲気は明るくなり、社員が喜ばれる仕事をしたいという雰囲気になり、次々とよい提案がだされてきました。その一つが作業車の清掃と道具箱の整頓だったそうです。
挨拶が会社を変えた。人を変えた、社長さんはそういっています。

【5月の花 忘れな草】
 男は川辺に咲く花を見つけ、恋人に贈ろうと、岸を下りた。だが、花を摘んだ後、足を滑らせ、川の中に落ちてしまう。男は力を振り絞って花を恋人に投げ、こういい残して流れに飲み込まれていった。「僕を忘れないで」忘れな草の由来となったドイツの伝説だ。恋人はこの花を男の墓に手向け、生涯、髪に飾ったという。忘れな草は5月の誕生花ともいう。今が見頃で、1センチにも満たない爽やかな花々が初夏の風に揺れている。

【5月の推薦図書「劉邦」宮城谷昌光 毎日新聞出版 1600円】
中国の歴史小説で人気の宮城谷昌光氏の最新作です。毎日新聞朝刊に今年の2月まで連載されていたものが上巻として5月16日に発刊されました。一介の下級役人から中国後漢(紀元前202年〜紀元後8年)の初代皇帝となる劉邦、天下人になる人の器量とは、世の中をつくるとはどういうことか示唆させられる小説です。(毎日新聞「悠楽帳」より) 

【5月の後半から6月初旬の行事】
 5月18日(月)〜21日(木) 第1回定期試験
 5月22日(金)〜24日(日) 希望者参加「理科生物セミナー」
 5月22日(金) 家庭学習調査  
 5月23日(土) PTA第2回役員会 5月23日(土)〜24日(日)生徒会合宿 
 5月25日〜6月19日朝の読書(読書月間) 5月29日(金) 3年生推薦試験
 5月30日(土)〜31日 生徒会合宿 
 6月 1日(月) 体育祭準備  6月 2日(火) 体育祭
 6月 6日(土) 土曜講座  参加者260名